今日は食道摘出手術後4年4ヶ月の検診。かなり安心できる時期に突入しているらしく、CTスキャンも今回は造影剤なし。外科医との話は、彼の京都からの土産話に終始。医者にとっては成功事例の顔見せのような検診になりつつある。


実は去年の暮れ、一か月でインド旅行日本への帰省をして、すっかり健康を害し、米国へ帰省してから2週間ただただ静養につとめていた。おかげで今日はどうやら体重も42キロまで戻っていたので、心配する点は何もないと言われた。


嬉しかったのは、2006年の5月の抗がん剤用のキャセターを埋める手術、9月の食道摘出に立ち会ってくれたレジデントとまた出会ったこと。彼はここ3年程はフィラデルフィアの病院に武者修行に出ていたのだが、またハーバードに迎えられたのだそうだ。


何故かしっかりと名前を覚えていてくれて、
「いや〜〜○○、健康そうだね、成功だ、成功だ。ハグしよう、ハグしよう」と、とっても喜んでくれた。食道癌の場合、5年生存はやはりなかなか難しいのだ。

このブログをつけるきっかけは食道癌に罹ったことだった。


2006年の5月20日の最初のブログに「自分でも未だに信じられないのだが食道癌に罹ってしまった。きちんとした記録をつけておきたいし、自分を客体化する時間を設けたい。そう思ってこのブログを始めことにした」と書いてある。


闘病中はこのブログを通して友人や家族から沢山の気をもらった。
最初の1年分は本にして、お世話になった先生方、心配をかけた父親に贈呈した。
ブログを通してお友達になった方々も沢山ある。
闘病中の食道癌患者の方々からメールを貰うことが今でもある。


ブログ第一日目からは4年5ヶ月。すっかり元気になって、このブログに記入することさえも気恥ずかしいぐらいになったけれど、これからも記念日には生存報告をしていこうと思う。

9月26日で摘出手術から丸4年経ち、『回復』という言葉が不自然になりました。私にとって摘出手術の日は命が与命であることを思い出させてくれる具体的な記念日で、今の瞬間を大事にしなければならないと襟を正されます。


さて、体重は43キロ(157センチの筈)前後で落ち着いています。術前から計算すると8キロほどのマイナスになります。経腸チューブのおかげでケモラジ中の体重減少は少なかったのですが、術後チューブを外してから減りました。今でも時折ダンピングがありますが、頻度はとても少なくなりました。また最初の1、2年は食べた後、ゲップをしないと食べ物が落ちて行かなかったのですが、それも殆どなくなりました。


現在のノー天気な生活はid:kuwachann-2_0に稚拙な水彩画と共に記しています。恩人の腫瘍内科医(故人)から癌回復期に何か新しいものを始めるように言われ、水彩画を始めました。だからこれもそろそろ4年を迎えます。才能があるわけではなく、完璧に下手の横好きですが、癌にかかるまでのキリキリした生活に新たな色が加わりました。新しいことを始めるには、どんなささいなことでも勇気と気構えが必要です。そんな前向きの姿勢が回復に役立つのかもしれません。英語でいう「cure」には医学が健闘しますが、「heal」にはこんな精神的なヒントが役に立つかもしれません。


一応ご報告まで。

昨夜デービッドレターマンショーというトークショーマイケル・ダグラス喉頭がん(ステージ4)にかかっていることを明らかにした。新聞の記事などから推測するに扁平上皮癌。食道癌と同様に飲酒とタバコが最大のファクターで、いってみれば食道癌の兄弟分みたいな癌。


ケモラジ治療を始めて1週間目とのこと。「8週間の治療のうちの1週間目だから今は大丈夫だけど、そのうち治療で固形物を食べられなくなる」と本人も言っていた。多分私の化学/放射線治療と似たものだろう。本人は手術のことを言っていなかったから、手術を避けて80グレイ強の放射線をかけるのかもしれない。たぶん経腸チューブをいれているに違いない。


やはりちょっと痩せている。インタビューの様子(ビデオ)は↓の記事の一番最後の方に。
http://www.examiner.com/alternative-medicine-in-detroit/actor-michael-douglas-expects-full-recovery-from-stage-4-throat-cancer

小澤征爾さんの復帰第一弾「サイトウ・キネン・フェスティバル松本」コンサート。「長期入院による筋力の低下に伴い、持病の腰痛が悪化。10分を超える指揮は回避する必要があり、冒頭でチャイコフスキー「弦楽セレナード」の第1楽章だけを指揮することに。」とのこと(http://news24.jp/entertainment/news/1613625.html)全く同じ記事が今日のニューヨークタイムズにも出ていた。さすが世界の小沢さんだ。


確か、小沢さんは椎間板ヘルニアの持病をもっていた。そうでなくても食道癌のような大手術からの回復には時間がかかる。私事で恐縮だけど、術後3か月目、4か月目で戻った通訳の仕事では泣きたいぐらいに背中が痛くなった。術後5か月目で旅行した時はヒースロー空港の乗り換えで気が遠くなりそうな気がした。私は何の持病も持っていなかったのに。


当然のことだけれど、30代で手術をした人は30代の身体に戻れる、50代で手術をした人は50代の身体に戻る。そして70代で手術をした人は70代の身体にしかもどれない。


小沢さんの、これからの順調な回復を心から祈っています。どうか余りご無理なさいませんように。時間はかかるけど、少しずつだけど、体力や筋力は回復していきますから。

食道癌にかかり、ケモラジ、食道摘出手術を受けて、4年余。「シンジラレナイ、ワカラナイ。タバコも吸わなかったし、お酒もそんなに飲んだ訳じゃない。なぜ私が食道癌なんだろう?お味噌汁が熱かったのかな」とずっと言って来た。しかし「やっぱり飲酒だったのかも」と思わせる出来事が最近あった。


2週間ほど前のこと。梅酒をワイングラス2センチほど頂いて、椅子に腰掛けて本を読み始めた。いつの間にか眠ってしまったらしい。突然入った電話で目が覚めた時は「いったいここはどこ?」状態。たったあれだけの梅酒で酔ったのだ。私ってもしかしたら、アルコールにはめっちゃ弱いタイプなのかもしれない。実は、食道を摘出して以来お酒を飲まなく(飲めなく)なって、ビールをコップ2センチ、白ワインを2センチぐらい(赤はアルコール度が高く駄目)を時々舐めるだけの下戸になった。


私は所謂「お酒を飲むと顔が赤くなる」タイプだった。つまりALDH2酵素を一つしかもっていない。でもケン三郎先生のところに書いてあるような「昔は飲めなかったけど、飲めるようになりました」タイプの飲んべえではないと思っていた。むしろ「健康のために適度のワインを飲む」タイプだと信じていた。


癌の診断がくだるまで、1日にグラス1/3ぐらいワインを飲んでいた。母親、主婦、かつ仕事を持っていたから晩酌なんかする時間なんかない。夕食の準備をしながらビールをコップ1杯、あるいはワイングラス1/3を立ち飲み。量的にはそれだけ。


私の頭の中での飲酒のイメージは、晩酌をしては横になって寝てしまっていた父の姿。
それに較べて「お酒のせいで寝ちゃった」「気分が悪くなった」ってことはなかったし、量も少なかった。だから「飲酒が原因?そんなこと絶対ありません」と言ってきたのだけれど、単に横になる時間がなかったり、酔っぱらう余裕がなかっただけなのかもしれない。どんなに疲れていても、食事の準備はしなければならないし、お皿は洗わなきゃならないし、次の日の仕事の予習をしなければならなかったもの。


何だかカミングアウトみたいなブログになりました。少なくとも米国ではグラス1/3のワインは飲酒とはみなされず、医者もファクターとみなしませんでした。でも、もしかしたら、女性でALDH2酵素欠如の場合、アルコール依存症と同じで、少量の飲酒でも食道癌になりやすいのかもしれません。


追伸:


同じことをゆうさんがゆうのブログでサラリーマンの立場から書いていらっしゃいました。また英語版の記事としてはhttp://www.nytimes.com/2009/03/21/health/research/21alcohol.htmlが一番分かりやすいです。

週末にCrazy Heartという映画を見た。この映画でジェフ・ブリッジスはアカデミー主演男優賞を、主題歌のThe Weary Kindはアカデミーのオリジナルソング賞を獲得した(なぜか日本では公開されていないようだ。)


ストーリーは(Wikiをそのまま引用すると)
「かつての人気カントリー・ミュージシャンのバッド・ブレイクは57歳となり、酒に溺れて結婚と離婚を繰り返すという自堕落な生活を送っていた。そんな彼のもとにある日、若い女性ジャーナリストのジーンが訪れる」で始まる。


そのミュージシャン(ジェフ・ブリッジス)のアルコールとタバコに溺れた生活が克明に描かれる。食道癌に罹った人なら「そんな飲んだくれた生活をしたら、癌になっちゃうよ」と目を覆ってしまうシーンが、これでもかというぐらい繰り返し描かれる。先日雄三さんがブログサイトで「食道癌と芸能、音楽には関係があるのだろうか」とおっしゃっていたけれど、日々のルーチーンがあまりなく、巡業のストレスのあるライフスタイルに要因が隠されているのかもしれない。そして、その意味では、自己を律して制作活動をしなければならない文筆家の生活もそうかもしれない。


色々と訳ありで、最近ビートルズの音楽を聞き直した。彼らの最後のLPホワイトアルバムを聞くと、いかに彼らが疲弊しきり、ドラッグやアルコールが心や身体に影響を与えいたかが分かるような気がする(もちろんBlackbirdのような珠玉の曲もはいっているけれど。)彼らが日本人の芸能人だったら食道癌に罹っていたかもしれないと思う。


ところで、食道癌コミュニティーではつとに有名なMさんが、現在入院中だ。過去5年半、どれだけ沢山の人に希望と勇気を与え続けたことだろうか。回復を心から祈っています。