福島第一原発の吉田前所長の食道癌

福島第一原発の吉田前所長が食道癌発覚で退任のニュース。

ちゃんとしたニュースでは被爆の可能性を否定しているけれど、グーグルで調べるとその可能性を疑っている人が沢山いる。

私は医者ではないけれど、食道癌を経験したものとしてその可能性はないと思う。

私の食道癌が発覚した時、すぐに治療を始めたかったけれど、医者の選定、治療法の選択、医者のスケジュール調整など、時間がかかった。患者としては、1日も無駄にせず直ぐ治療を始めたかったので時間が経って行くのがとてももどかしかった。

そのフラストレーションを腫瘍内科医に伝えたところ「焦らなくても大丈夫。癌がここまで大きくなるには5〜10年かかっていますよ」と言われた。

3.11からまだ半年ちょっとだから、吉田前所長の食道癌は被爆によるものではない。

日本の食道癌の治療は内視鏡のESDがとても進歩していて、病巣がかなり大きくても食道摘出をしなくてもよくなっている。前原前所長の癌が内視鏡治療の可能な早期発見であることを祈ります。

アップルの創始者スティーブ・ジョブス膵臓癌でなくなって2週間以上が過ぎた。id:kuwachann-2_0の方にも書いたけれど惜しい人を亡くしたと残念な思いが募る。


さて、彼の全生涯を語る伝記(Walter Isaacson)が10月24日に出版されるのだが、そのプレビューニューヨークタイムズに出ていた。


びっくりしたのは、あのスティーブ・ジョブズでさえ(あるいはスティーブ・ジョブズだからこそ)膵臓癌が発覚した当初は「フルーツジュース+鍼+ハーブ+その他インターネット上の民間療法」で直そうとしたと言うくだりだ。


このブログの最初の頃にも書いたけれど,癌が発覚した時に患者を苦しめるのは「私の友人の○○はこれで治ったよ」と言う善意に満ちた民間療法へのお薦めなのだ。食道癌のブログで有名なケン三郎先生もここに書いていらっしゃるけれど、この情報の力の大きさは実際に癌を経験したものでなければ分からないだろう。


実は同じ頃に癌に罹っていた同級生を民間療法で亡くした。彼女はお灸で肺癌を治すと主張して、結局癌に勝てなかった。当初のスティーブ・ジョブズと同じように「自分は強いから、この方法で治してみせる」みたいな意気込みがあった。しかし、癌は平等に人を襲う。


私の癌が発覚した時、看護婦をしていた義理の姉が「これからは、食道癌のプロにならなきゃね。その癌を理解しなきゃね」とさらっと言ってくれた。事実に冷静に直面し、知識を得なさいと言う素晴らしい助言だった。


食道癌のブログとしては古くなるけれど、とても正確で冷静なものに「のどの下の胃ぶくろ」
がある。その中の代替医療と市場原理の章が一番、説得力があると思うので以下に引用しておく(蚊帳吊りウサギさん、勝手に引用しました。お許しください。)



代替医療や健康食品の氾濫の是非は、この際、ひとまず置くとして、その売り込みの論理の中に、よく出てくるのは「西洋医学の方法論は、自然科学万能を信じるあまり、人の持つ自然な治癒力を軽視している」という理屈でしょう。製薬のインサイダーの立場から言えば、これは、なんとなく、ちょっと違うと思います。

現在の医科学というのは、「人の持つ自然な治癒力」を単に神秘的なものとして、祭り上げておくのではなくて、もっともっと、綿密にその本質を理解しようとする方向に向かっていると思います。ヒトゲノムの解読プロジェクトなどはその典型です。だから、最近の抗がん剤の開発なども、以前の無差別なテストからすくい上げた、細胞毒性を主な薬理作用とする「強引な」副作用の大きいものから、今までよりもはるかに綿密にデザインされたものへと、大きくシフトしてきています。最近、骨髄性白血病をターゲットとしたグリーベックという薬が開発されましたが、これなども、ひと昔前から考えれば、夢のような薬です。

それから、もうひとつ思うことは、製薬会社というのは、要するに会社であって、利益を上げることがその存在目的だということです。要するに、利益が上がれば良い。まあ、それ以外の社会的、倫理的意義を掲げる経営者もいないことはないですけれど。そういう意味では、唐突な例ですが、ラーメン屋と一緒です。まずいラーメンを出しても、客がどんどん来て儲かるなら、普通、ラーメン屋は高額の投資をして、上手いラーメンをつくろうとはしません。でも、それでは、隣の來来軒に客を取られるので、仕方なく、美味いダシをとるべく、店主は特別な鶏がらの調達に奔走するわけです。

製薬会社だって、ぜんぜん効かない薬もどんどん承認されて、飛ぶように売れるのであれば、わざわざ研究開発などをしません。でも、それでは、競争に生き残れないので、「仕方なく」研究開発をするのです。世の中にはいろいろな産業がありますが、売り上げの15−20%までを研究開発に投資すると言うような、キチガイじみた開発競争をしている業界はちょっと思いつきません。そして、その製薬会社が、研究開発の際のよりどころにしているのが、いわゆる西欧流のサイエンスであるのは、偶然ではありません。それが、もっとも投資効率がよいから頼りにしているだけです。ほかに、もっと安上がりの薬を作るための良い指針があるなら、世界中に無数にある製薬会社の切れ者たちが、それに目をつけないわけはありません。私などからみると、もう信じられないくらい優秀かつ勤勉な、ビジネスマン、サイエンティストが、鵜の目鷹の目で、新しいアプローチを模索しています。そして、実際にそういう探索は常に行われています。以前に、仕事でイタリアの天然物抽出の会社をたずねたことがありますが、そこの研究所には、インディアナジョーンズも真っ青と言うような、奇怪な植物・動物の干物が、山積みにされていました。製薬会社のトップ(少なくとも株主)も、別に主義主張としてサイエンスをやっているのではありません。どんな不思議な水でも、虫でも、草でも、護摩でも、本当に効くなら、なんとしてでも他人より早く開発のパイプラインに載せて、特許をおさえてしまいたいと、思っています。

溺れる者はわらをも掴む。人間は弱いものですから、がんがこの世から一掃されるまで、がんに効く健康食品・代替療法の宣伝が新聞雑誌から姿を消すことはないと思います。それを反証するように、すでに西欧医学によって、ほぼ駆逐されてしまった、あるいは良い治療法の確立した病気、(結核とか、天然痘とか、胃潰瘍とか)に効くことを謳った健康食品・代替療法にはお目にかかりません。ここには、非常に単純な市場原理が働いています。私は、健康食品・代替療法の氾濫については、まあ、それはそれでいいのだと思っています。もし、そういう胡散臭いもののなかに、本当にがんの治療の主流となるような方法が潜んでいるなら、それは、近い将来、自然に医療の世界に市民権を獲得して、広く使われるようになるでしょう。なぜなら、上に書いたように、この世界の「何でもあり」の厳しい市場原理が、本当に売れる商品が小規模なネット販売などの世界に留まっていることを許さないだろうからです。しかし、「そういうものが、今の健康食品・代替療法から、出てくると思うか?」と問われれば、私の答えは「ノー」です。英語でいえば、「Let’s wait and see」と言うことになります。もちろん、違った意見をお持ちの方も多いことは、十分に承知していますし、上に書いたように、それはそれでよいのでしょう。だから、「Let’s wait and see」なのです。

米国では9月の最初の週末はLabor Day weekendの連休。久しぶりでメーンのロックランドに行って来た。ここはアンドリュー・ワイアスの作品を所蔵する美術館の他、沢山の画廊がひしめいているアーティな町。


しきりに回顧する訳ではないけれど、この町には5年前の9月摘出手術の直前に訪れた(http://d.hatena.ne.jp/kuwachann/20060922)。でも、←の日記に書いた和食のレストランには入らなかった。ダンピングですごく調子が悪かったのだ。


ダンピングの頻度も重度も昔と較べると全然楽なのだが、今でも時々起こる。そして、それは炭坑のカナリアガイガーカウンターみたいなもので、糖分が多くて添加物や保存料の沢山入った加工品=「不健康な食べ物」を食べた時に起こることが多い。今回はガソリンスタンドで買ったブルーベリーマフィンだった。しかし、新鮮な食材を使ったものなら、多少甘くても、バターがいっぱいでも起こらない。


ダンピングは仕事をしている時には起こらない。仕事中は安全なものを少量しか食べず、スナックを持ち歩くからだろう。過去5年間スナックも様々な変遷があった。最初の頃は「小さなお握り」がかかせないものだった。密に固めたご飯は密度が高いため、ストンと喉を通ってくれた。今でもご飯があればお握りをつくることがあるけれど、別にこだわらない。以下が最近持ち歩いているもの。


ナッツ(ピーナッツ、アーモンド、マカデミア他)
Laughing cowのMini Babybelのチーズ(http://www.thelaughingcow.com/products/mini-babybel/)1つ1つがワックスに包まれているので,持ち歩きに最適
グラノーラバー
チョコレート(冬場はLindtのボンボン1〜2個、夏場はハーシーのキス数個)

他の方々はどんな工夫をなさっているのだろうか?

今日はBrigham and Women Hospital胸部外科での検診。2006年の6月14日に経腸チューブを埋め込み、放射線化学治療を始めたから、本当に丸5年。


外科医はただ一言「Success!」
これからは1年に1度の検診になるそうだ。
摘出手術が終わって最初の検診で「君のステージだと5年生存率60%」と言われた。今考えてみると10人に6人の生存率だから結構あぶなかったのだけれどもノー天気な私は再発や転移の心配は殆どしなかった。だから今日の「異常なし。成功」の言葉も心をすっと通過するものと思っていた。しかし帰りの車の中でふと、「頑張ったんだな、私」と言う思いがわき上がって来た。そう、5年間、やっぱり頑張ったんだと思う。


5年生存したら、染めるのを避けていた髪の毛を金髪にでもしてやろうかと思ったのだが、すっかり今のごま塩に慣れてしまったし、1か月に1度染めるなんて面倒くさい。替わりに先週カナダに行った時、国境のデューティフリーのお店でディオールの口紅を買って来た(これまで5年間殆どお化粧もしていなくて、ティーンエージャーみたいにリップグロスだけで過ごしていた。)5年生存のささやかな記念、ご褒美だ。


さて、当然CTスキャンも検診も問題はなかったのだけれど、今日は血圧の低い方が45しかなかったし、スキャンのために朝ご飯を抜いた。検診が終わった時はお腹が空いて仕方がなかったのでマフィンとコーヒーを食べた。空腹に糖分を入れすぎると気分が悪くなるのは5年で充分学習しているはずなのに、またもや愚かに過ちの繰り返しでダンピング。そのせいで家に帰って来た時は半病人だった。「食」の部分だけはこれからも用心しなければならないようだ。

7月11日に摘出手術をしてくれた外科医との検診がある。摘出は2006年9月だったけれど、術前に放射線化学治療を行ったので、経腸チューブを入れる手術を行ったのは6月14日。本当の意味での「5年生存」のご報告は、7月11日にと思っていた。


ところが、である。5月26日に受けたマンマグラムで異常が出てしまった。出張先のソルトレークシティに電話が入り、「硬化した組織があるので、再検査」と言われてしまったのだ。当地の出張は2週間に及ぶものだったし、その後も旅行や仕事の予定が入っていたので、再検査は1か月後になる。「絶対何でもない」という妙な自信 ー 全く胸のない人が乳癌にかかる筈がないという単純なロジック − があったのだが小さなシャボン玉大の不安はあった。


そして今日が検査。あんなに「何でもない筈」と自信があったのに、問題があると言われた右乳房が妙に重く感じられる。そして5月に乳癌で亡くなったid:ayumi_aさんに話しかけている自分に気付く。


食道摘出をした後の私は身長157センチで体重43キロぐらい。もともと豊かでなかった胸は殆どなくなった。マンマグラムというのは乳房を2枚の板の間に挿んでレントゲンをかけるもの。技師の方は毎回苦労なさるのだが、今回は胸の奥の方の撮り直しなので二人掛かりで(!)四苦八苦。私の方も肋骨をこする感じで胸をつままれてかなり大変。何度も撮り直しをして、やっと取れたらしい。2人でごしょごしょ話しをして「ちょっと待ってて下さいね」と部屋を出て行ったきり、なかなか帰ってこない。


「乳癌だったら又化学治療かぁ。髪の毛が抜けるなぁ。癌だったらもう仕事は辞めて旅行三昧しよっと。もし手術で乳房をとることになったら、食道癌の摘出と乳房で文字通り満身創痍。温泉は絶対むりだわな〜〜」
「息子達大変だな。。。母親は食道癌ー乳癌。父親は前立腺癌。生命保険の額が高くなるだろうな。『癌家系』になっちゃうだろうな」


「何でもない、絶対大丈夫」の自信はどこへやら。一人残された検査室の中で色々シナリオを考えてしまった。その背景には5年半生存した後に血液癌にかかってしまった室川さん、乳癌の転移で亡くなったあゆみさんid:ayumi_aさん、その他再発や転移(その疑い)を抱えている人々との交流がある。


5分ぐらいしてからだろうか、レントゲン医が技師と一緒に現れ「大丈夫ですよ、なんでもなかった。胸の血管に石灰沈着があっただけです。胸が小さいからよく見えなかっただけでした」と言ってくれた。普通はレントゲンのリーディングに2、3日かかるのだが、患者の懸念を受け止めてくれたのだろう。とても有り難かった。


更衣室で検査用ガウンから私服に着替える前に「あゆみさん、大丈夫だったよ。有難う」と思わず手を合わせた。そろそろ彼女の49日だ。

東北地方太平洋沖地震で被災された方々に早く援助の手が伸びることを心から祈っております。たぶん当区域にも食道摘出手術回復中の方もいらっしゃったことと思う。食の大変さを思うと心が痛い。福島第一原発での格納庫冷却がどうか上手く行きますように。

今回の福島原発放射能の単位として出て来るのはレム。放射線治療の時はグレイとかミリグレイを使っていたので、言葉の違いを調べてみた。グレイは吸収線量。放射線の種類によって吸収線量がちがうので、放射線荷重係数を乗じて線量当量を出す。X線だと係数は1。つまり1グレイは1シーベルト。そして1シーベルトは100レム。


すると(ウィキが間違っていないと仮定して)トータルで50グレイ強の放射線治療を受けた私はすでに5000レムの被ばくをしているということなのかな。。。

ここ2週間、次々と放射線医と腫瘍内科医との検診があった。


放射線医との検診はもう大分前から1年に1度になっている。一年前にiphoneのカレンダーに入れた日付が間違っていて受付で「あなたの検診はあと1か月先よ」と言われたのだが、「ひゃ〜〜、iphoneのアプのせいだわ。テクノロジーは信用ならないわね。ほほほ。でも、せっかく来たんですし、私のアポは一番最後だとおもうんです。入れられませんか」とニコニコとごり押しして結局診てもらった。大学病院でこういう折衝をしてしまう私、患者のプロだし『すごいオバさん』だ!!


私の放射線治療はIMRT (Intensity-modulated radiation therapy)強度変調放射線治療。肺や心臓にシールドをかけた上で食道の裏にまで放射線をかけた。かなり新しいやり方であったらしく、医者からは「僕が死ぬまで検診するからね」と言われている。検診は問診と触診と雑談だけ。察するに晩期毒性を観察しているのだろう。


腫瘍内科医との検診では血液検査、問診、触診。「そろそろ5年だね〜。これは偉業だよ〜〜」と医者はニコニコ。「ってことは、もう来年から来なくてもいいってことですか?寂しいなぁ〜」と言ったら「いや,僕は10年までは患者を診ることにしている。もし君が良ければだけど」と答える。この時点で医者達とのリンクが切れるのはちょっと不安なので、とても嬉しい言葉だ。


今回の検診で問題になったのは体重。相変わらず44キロを切っている。「この体重だと風邪をひいたり、下痢をした時のリザーブがないから、すぐ点滴とかになってしまう。できるだけ増やすように」と言われた。


実は最近とても調子がいい。その理由は朝1時間弱を使うエクササイズ。私の住んでいるマサチューセッツ州、今年は厳冬で大雪。散歩なんてできない天気がずっと続いている。癌が発覚する数ヶ月ぐらい前に購入したエリプティカルとエクササイズバイクがずっとほっぽってあった。それを使い始めたのだ。毎朝250キロカロリーほどを燃やし、ラジオ体操で締める。調子がいいし、お腹が凄く空く。体重も増えそうな予感がある。適度な運動って、当然のことながら本当に重要なのだ。

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ところで、2日ほど前にブログ「Tropic of Cancer」のミュウさんの弟さんからメールを頂いた。当ブログで私のブログに言及したいとのこと。誠に光栄なことだ。


ミュウさんは著名なプロデューサーだった。ブログの文章はとても美しく、妥協を許さない美意識を反映していた。存命中、私はただただファンだった。


5年前のミュウさんが治療を受けた時代と較べると放射線治療に対する考え方が少し変化している。でも、限られた体力と時間の中で、冷静に貪欲に生きられたミュウさんの生き方とブログはこれからも多くの人にインスピレーションを与え続けることになるだろう。