食道癌を克服した人の中には掲示板をもっていらっしゃる方も多く、そこで出会った人々にメールを出すことも頂くことも多い。医者が言ってくれない落とし穴とか生活の知恵を得るために、そして共通体験をした者でなければ知り得ない痛みを共有する貴重な場である。そういった方々からの情報なので偏りはあると思うのだけれども、日本に是非腫瘍内科医制度が根付いてほしいと思う。


例えば抗がん剤を打たれている間水分補給をしないと腎臓が駄目になるのにその指導をしていない医師もいるようだ。また抗がん剤、吐き気止めの薬とのミックスによっては下痢になったり便秘になったり基本的な生理機能に問題が出て来るのだが、どうも日本ではその指導が行き届いていないようだ。私が腫瘍内科医で抗がん剤治療を受けている間は必ず下剤も便秘薬も吐き気止めとセットにして細かな説明とともに渡された。そして多量に吐いた翌日には必ず電話をかけるように言われ、水分が充分摂れない状態の日には通院で生理食塩水の点滴を受けるように指導を受けた。日本では抗がん剤治療、あるいはケモラジ(抗がん剤放射線)治療は入院治療なので病院側で管理ができるからそれ程のケアが必要ないのかもしれないけれど、最近は日本でも通院治療をする人が出て来た。しかしそのケアが荒いような気がする。腫瘍内科医が最新の抗がん剤プロトコールと副作用を理解しQOLのノウハウときめ細かなケアをきちんとした独立機能として受け持つ形態の通院治療でない限り、通院治療はリスクが高くなるだけだと思う。


また食道癌の化学、放射線治療に関して言うと、日本で経腸チューブがあまり使用されていないのは何故なのだろう。私の場合は6月から11月まで(ケモラジ治療から摘出後まで)自宅で使用した。扁平上皮癌は化学治療+放射線に非常に良く反応する。私の場合はこの治療だけで癌細胞が全部消えてしまったぐらいだ(完璧を期してその後摘出手術もしたけれど。)しかしこの治療は抗がん剤で新しい細胞が作られるのを阻止しながら放射線で焼き切ってしまうわけだからひどい食道炎になってしまい、数週間飲むことも食べることもできなくなる。食道炎が一番酷くなるのは治療が終わってからおよそ1ヶ月間なのだ。治療の前に経腸チューブを挿入して毎晩カロリーと水分を外から摂取できるようにすれば、脱水症状に陥ることも極端な体重減少も未然に防ぐことが出来る筈だ。そのような予防策なしで放射線治療が終わった時点で退院させられると、その後数週間水分も栄養も摂取することができず急患で病院に担ぎ込まれることになってしまう。経腸チューブを使えば摘出後の体重減少も最低限で押さえられる。


米国では入院治療は殆ど行われない。その理由はコスト高と入院中の感染症である。経腸チューブの操作など日本だと入院中の患者に看護婦が行うものなのだろう。しかし教育とサポートがしっかりしていれば患者はそのぐらいのことはできる。いや、患者は必死なので出来てしまうのだ。米国の場合そのサポートが腫瘍内科医と通いの看護婦制度(チューブをつかっている間週1回来てくれた)によって提供されている。


日本も米国と同じように癌人口が急速に増えている。腫瘍内科医制度もやっと導入され通院による治療を選ぶ人も出て来た。抗がん剤プロトコールなど新しい治療法の承認もスピードアップされて来つつあるという。とても喜ばしいことだ。でも論文でカバーされていない所謂ソフトに属するケアのノウハウやプロセスも是非研究し導入してほしいと切実に思う。