月曜日に経腸チューブを抜き取った。


日曜日に突然チューブを挿入している周辺が化膿した。チューブの周りは通気性のあるシールで固定してあるのだが、その周りからジワジワと悪臭のする膿みが出て来る。アクシデントは必ず週末に起こる?


腫瘍内科に電話をすると当直の先生はERに行けという。抜き取りを考えて、ここ10日ばかり使用を控えているチューブだ。ERで待たされた上に新しいチューブを再挿入されたらかなわない。抗生物質だけ出してもらって月曜日まで待機することにした。


抜き取りはあっけなかった。「任天堂wiiは日本語なの?」「う〜ん、酔っぱらった時の擬声語としてはあるけどね」なんて話をしながら、あっという間に抜き取られた。抜き取られたチューブは細くて長くて(20センチはあった)、なんだか汚い。挿入の時は全身麻酔であんなに大変だったのに、痛くも痒くもなかった。医者の話によると、数時間もすれば穴は自然に塞がってしまうらしい。


「これからの体重維持は自分でやるしかないからね。スナックバッグを持ち歩きなさい」と医者は陽気に言う。ここ数日間、進捗状況に疑問を抱き、映画「groundhog day」(邦題は『恋はデ・ジャブ』http://www.amazon.co.jp/gp/product/B00005LMDQ?ビル・マリー主演の秀作。是非見てほしい)のような出口のないループの中に入り込んだような気分になっている私とは好対照である。「で、でも体重がかなり減ってるんですけど。。。」「あ、普通ね食道を全摘すると5キロは減って、それが新しい体重になるんだよ。それ以下になるとこまるから3週間後にまた来なさい」


えっ、そんなこと前は言ってなかったぞ。2週間前は体重が前より減ってるって難しい顔してたのに。。。だから私は落ち込んでたのに。。。


腫瘍内科医は癌治療の総指揮者、プロジェクトマネジャーの立場にあることは前にも述べた。今回もBWHの外科医に電話をかけ、許可を得た上でチューブを抜き取ってくれた。今回はたまたま連絡がスムーズに行ったのだが、そうでないことも多いと思う。かなり大変な仕事である。


さて、チューブを抜き取って一晩経ったのだが、やはり身体が軽い。長期間命綱として頑張ってくれたチューブだけど、身体にとっては異物であり、自然治癒を妨げるものだったのかもしれない。気のせいか食も進むような気がする。


*****


今回のチューブ挿入部位の化膿は別に大問題ではなかったけれど、やはりちょっとパニックに陥った。自分の身体から嫌な匂いのする変な色の膿みがドロドロ出てくるんだもの。ここのところ次から次へと問題が起きるので、夫が旅行を取りやめてくれたこと(正確には延期)にとても感謝している。


強い理性的な人間でありたいと願うのは自然なことだと思う。さらに日本の文化の中で育った私には「夫をたてなきゃ」「夫の仕事の邪魔をしちゃならない」みたいな気持もある。幸運なことに、これまで自分にキャリアもあり経済力もあったので自分の中のそんな気持を意識する必要はなかった。夫も妻も平等にキャリアを伸ばし、経済力をつけなければならいと単純に思っていたのだ。


癌にかかる前は、どんなにつらくても夫の邪魔をしないことが勇気のあることなのだと思っていた。だけど自分の弱さを素直に認めてパートナーに頼る決定をすることの方が実は勇気が要るのだ。「お願い、行かないで」と正直に言えなかった私の替わりにキャンセルをしてくれた夫を有難く思う。 


今回夫が研究旅行に出掛けていても、多分大丈夫だったと思う。私は涙をながしながら頑張って、時々自己憐憫に陥って、ちょっと恨んだりなんかして1ヶ月を過ごしたことだろう。でもそれをやると私の中に夫に対して「固い」部分ができてしまって、夜叉面をかぶる時ができてしまったかもしれない。


結婚して28年目。癌という天災みたいなものに遭遇することで夫婦の関係も少し変わって来たようである。