今の私の一番の課題は自分の身体が理解できないこと。癌にかかる前は背中が痛ければヒートバッドを当てたり、マッサージに行ったりしていた。風邪気味だなと思えばさっさとベッドにはいり、本格的に病気になるのをふせいだ。何しろ50年間付き合った身体だから「無理してもだいじょぶ」な症状を大体把握していた。


ところが胃が食道を代行しはじめてから、何が異常で何が正常なのか分らない。ゴホゴホといつまでも咳がとまらないのは術後の普通のことなのか、それとも胃と食道の縫合部分に何か問題があるのか?縫合部分がきつく感じるのは狭窄のせいなのか、それとも単に手術のせいなのか。単なる微熱なのか、肺炎を疑った方がいいのか。


今朝はひどい背中の痛みで目を覚ました。角度のついたベッドの上で寝ているから姿勢が不自然なのだろうか。背中の関節炎がとうとうひどくなったのだろうか。放射線の後遺症だろうか。 こんな時に限って夫は2日前からメーンに出掛けてしまっている。


彼は今年はサバティカル(研究休暇)で本来ならば今頃は日本にいるはずだった。しかし私が癌にかかってしまったため全ての予定を数ヶ月延期して看病してくれている。しかし私の回復状態もいいし、延期ももうあまりできなくなったので、12月は1ヶ月オーストラリアに滞在することになった。そして12月の初頭にあるオーストラリアでの学会のためのペーパーを書かなければならない。家にいると私や雑事に振り回されて落ち着いて執筆できない、ということでメーンに逗留中なのだ。


夫がいないと医者に連れて行ってくれる人もいない。「どうしよう」と脂汗を流しながら、腫瘍内科の先生に電話をかけた後、仕事に行く準備をしている息子に背中をさすってもらう。EMTの免許をもち生物学で学士を取った息子は一般人よりは医学知識がある。「効かなくて駄目もとだから」と言いながら、サロンパスのシップの部分だけを塗り薬にしたMuscle rubを塗ってくれた。


あ〜ら不思議(でもないか。)あっという間に痛みが消えた。単に筋肉痛だったようなのだ。


「まゆみ〜、どうしたの」と腫瘍内科の先生から優しい電話が掛かって来たのはお昼前。「Muscle rubで楽になりました」というのもかなり恥ずかしい。自分の新しい身体の把握ができるようになるまではかなりかかりそうである。


ところで、実は3週間ほど前に仕事を引き受けてしまった。エージェントから「半日の仕事です」と言われ、あまり考えずに「イエス」と言ってしまった。話のあった当時はまだ離乳食を始めていなくて、強い鎮痛剤を使っていて、人工的にとても元気な時だった。食べることがいかに大変でエネルギーと時間を要するかが全然わかっていなかったのである。しかし話はとんとんと進んでしまい、結局2時間半の通訳の仕事を11月10日にする。根本的に楽観的な人なので「ま、大丈夫でしょ」と思っているのだけれども、今日のような痛みを経験すると自信がなくなる。


しかし、この仕事のことが念頭にあるため、「鍛えなきゃ」と思って毎日1マイルは歩く。8月に放射線でボロボロになっていた時の仕事のように、「やっている時はきついけど、後から自信に繋がる」経験になってくれるといいと思う。


その仕事のために、ちょっと伸びて、少しだけ埋まってきた髪を美容院でシャープにカットしてもらい眉も整えてもらおう(だけどすっごいショートだからクライアントは怖いだろうな。だけど帽子やスカーフを被っての仕事はしたくない。)ぺったんこで歩きやすいドレスシューズを購入して、経腸チューブでも大丈夫なワンピースを購入しよう。。。これじゃ赤字だ。。。