月曜日にBWHに術後診査に行った。抗生物質の効き目はすごい。化膿していた傷跡もきれいに治った。退院直前に抜糸をしたりホチキスを除去した後にテープが貼られたのだが、医者はそれも全部はぎ取ってしまった。


診察をしながら「今日から何でも食べていいよ。強いて言えば乳製品と鶏肉は避けた方がいい」と外科医は言う。「何でも?」自分の耳が信じられなかった。これまでおよそ10日間弱「透明な液体」だけしか許されていなかったし、日本だと、液体、おもゆ、お粥と病院食が少しずつ変化して行く筈なのにと不安になった。


しかしその不安は1時間後にスケジュールされていた栄養士との面談で解決した。(日本と違い、食事を全て自己管理しなければならないので、外科との面談の日に栄養士とのコンサルテーションがペアで組み込まれているのだ。)


タンパク質を充分に摂取するのが重要で、最初のうちはできるだけ柔らかいものを食べる。タンパク源としては卵や魚、豆腐が好ましい。野菜も固い皮(トマトとかピーマン)のあるものは暫くは避ける。果物も最初はアップルソースや缶詰の柔らかい物がいい。ご飯はスープに入れて煮込んで柔らかくした物がいい等々。


異文化が入れ混じっている国なので、日本のように一元的に「お粥」にしなさいと指導できないのだ。栄養士は、まず私が普段何を食べているかを質問した上で私の食生活に沿ってカスタマイズしていく。単一民族の国だとこんな苦労は要らないのだが。


食べ物に加えてもう1つの課題は経腸チューブからの「乳離れ」である。6月以来、食道炎で何も食べられない時も、術後の体重維持にも、また薬の摂取にも経腸チューブに依存してきた。医者によると私の経過がいいのは、過酷な治療の最中でもチューブのお蔭で一定の体重と体力を維持できたかららしい。しかし経口で栄養を摂取しはじめると、チューブの栄養を減らさなければならない。缶1つに匹敵するタンパク質や水分の摂取量を教えてもらったので、これからはそれに沿って缶の数を徐々に減らして行く。缶の数を減らさないとお腹もすかない。文字通り赤ちゃんの乳離れと離乳食のような関係だ。


さて「乳離れ」と言えばもう1つ大きな出来事があった。6月に経腸チューブを挿入以来、1週間に1度看護婦さんが在宅看護で来てくれていた。4ヶ月以上通ってくれたので友達のような関係になっていたのだが火曜日に「今日でおしまい」と宣言された。私の回復は最高に早いスピードですすんでいて、もう彼女が来て問診をする必要がなくなったのだそうだ。「そろそろ普通の生活『癌生還以降バージョン』の準備をしなければ」と強く思った。


6月以来「癌にかかっている病人であること」がアイデンティティの一部になっていて、術後も「本当にこれで終わりなの?」と何となく信じられなかった。しかし漸く『その後の生活』のことを真剣に考えても良いんだ、考えなきゃいけないんだという感動が静かに沸き上がって来ている。