最後の化学治療は1週間前だったけど「スカンクのすかしっぺ」みたいにしつこくて未だに吐き気があって疲れやすく、今朝また吐いた。その上放射線治療のせいで、また食道炎がひどくなって食道の下の方が恒常的に不快。食べ物を胃に入れるのが非常に大変。


しかし、一応化学治療(抗がん剤治療)が終わったので、美術館で今日から一週間開催される「水彩画教室」を始めた。月曜から金曜まで、9時半から12時半まで。今まで旅行するたびに「スケッチができたらいいな」「自分の頭の残像を水彩で描けたらいいな」と思っていた。この教室の情報はまえから握っていたのだが、医者はJチューブで栄養摂取をする時間が今頃は18時間/日ぐらい必要になるだろうと予測していたので多分無理だと思っていた。しかし、気分は悪いけれどチューブを繋いでいる時間は8時間で収まっている。金曜日にぎりぎりで登録した。


このクラスは「水彩画のテクニック」を教えてくれるというもの。小学校の時に(大昔の話)べた塗りした水彩画とはちがい、チャイニーズペインティングのテクニックを教えてくれる。先生はチャイニーズペインティングと一緒くたにして言っているのだが、水墨画のことらしい。たとえば木の幹の部分に「hake」(ヘイクと発音するので『刷毛』でしょ?といいたくてしかたがなかった)で水を一杯含ませてその枠の部分に水をいっぱい含んだ色を加えると、うまくにじんで味のある幹が出来上がる。


「簡単に木が描けちゃうでしょ。すごいでしょ」と先生は言う。たしかに面白い。しかし日本人である私は、それを単に偶然の簡単なテクニックで片付けてしまう先生にちょっと抵抗を感じてしまう。


ボストン美術館で通訳の仕事を続けて15年余。様々な文人画、花鳥画水墨画学芸員と共に見て来て、説明をうけている。東洋の匠たちは修行に修行を重ねて、一見偶然に見えるテクニックを神業と思われるレベルまで高めているのだ。このテクニックも実は昔は弟子入りしてやっと学ばせてもらったトレードシークレットみたいなものに違いない。なんとなく冒涜の気がする。換骨奪胎だな〜と思う。


しかし、と思い直す。日本は日本で西洋画法を使って「大正時代の美人画」みたいなものができたのだから似たようなものかもしれない。


そう言えば一週間前に仕上げた翻訳は「村上隆のアート」についてのものだった。モネの時代にも日本趣味はあったわけだし、有田焼のような陶器はシルクロードを通って、様々に影響を与え形を変えている。


そう思うとこの不思議な教室も楽しめそうだ。


教室の後放射線治療に行ったのだが、さすがに疲れて、午後は何もできなかった。何をどのぐらいすると疲れるのかのバランスがうまくとれない。