夫が休みを取れたので、午後出発でまたもやメーンに向かう。夕食は途中のタイレストランで摂る。ちょっとダンピング気味だったにしてはよく食べた。術後およそ1年。「喉につまる」「ダンピングだ」と言いながらも体力も食生活も確実に向上している。


私ぐらいの年齢になると(昭和31年生まれ)記憶力も体力もどうしても下降気味になってがっかりすることが多いのだけれども、癌からの回復という点では体力も能力も上昇成長あるのみで心の「元気玉」になっている。


さて、食道癌で病んでいらっしゃる方のために少しでも参考になればと思って「食道癌」とか「摘出手術」などのカテゴリーをつくってこの日記をつけているわけなのだが、ダンピングだの喉に詰まるだの書きすぎて、手術を受ける人を心配させ、迷わせているかもしれないと思うことがある。


私の場合昨年の6〜8月にネオジュバン(術前治療)でケモラジを行った後9月26日が摘出手術だったのだが、およそ1年たって思うのは「手術をしてよかった」である。


まず、少なくとも現在存在する全ての方法で癌を叩いたので再発や転移に対する不安が小さい(できることは全てやったという自己納得は結構大切なことだと思う。)さらに硬膜外麻酔と術後のペインコントロールのお蔭で術後の痛みは驚くほど小さかった(術後11日で退院して大丈夫だった。)ケモラジの予想不可能で不気味な副作用にくらべて手術からの回復は物理的で処しやすかった。


医学の発展の著しい今、ウェブにある情報(特に手術の方法、術後の苦しみなど)はあっと言う間に古くなることが多いし、必要以上に「ひどい目に遭った」人の情報であることもある。つまり私ほどの喉の詰まりやダンピングを感じていない人も結構いると思うのだ。


さて昨年は9月下旬の手術の後、11月初旬に最初の仕事を2時間だけ引き受けた。経腸チューブをぶら下げ、痛み止めも栄養もチューブに入れながらである。心理的にはとても自信のつく経験だったけれど、2時間の緊張のせいで傷跡がひどく痛んだ。次の仕事は12月だった。咳が出てしまって歩きながら話すことは不可能だったので「工場見学」の部分は免除してもらった。


しかし1月以降は週3日以内に仕事を押さえながら、自分で運転して通勤したし、工場見学も請け出した。私生活では2月の末にスコットランド、4月には日本へ旅行し、仕事で出張することも辞さなくなった。そして9月現在は前と殆ど前と同じペースで仕事をしている。


自分の回復を振り返ってみてこの1年の歩みほど目覚ましく嬉しいものはない(これから先の展開がどうなろうとも。)今までは自分は根性なしで臆病だと思っていたのだけれども、手術、回復という道を歩むことで「おっ、私だって結構すごいじゃん」みたいな嬉しい驚きがある。今まで気付くこともなかった「人間だれもが生き物として持っている底力」を発見させられたわけで、これは感動的である。


昨年手術をする前に自覚したことが一つある。手術が怖いのは「今までと違う生活が待っている」「未知が待っているから」だということだ。でもよくよく考えてみれば、リストラされても、外国に転勤しても、事故にあっても、子供が生まれても、親が他界してしまっても、宝くじにあたっても「今までと違う生活」は待っている。例えば、食べ物が喉につまるだのダンピングなどは脳梗塞で倒れた後のリハビリと比べるとずっと楽だし(他の家族への迷惑も少ないし、)宝くじを巡っての家族の争いなんかよりはずっとストレスフリーだ。「どっちかを選べ」と言われたら摘出手術を選ぶかもしれないぐらいだ。


癌にかかっている人の状況はその人の病期や医者のトレーニング、経験でとても変わって来る。信頼できる医者に出会ったら、彼/彼女が一番と思う方法を取るのが一番だと思う。たとえそれが手術であっても。