朝8時半に玄関のチャイムが鳴った。誰だろうと思ったら、あのインド人のマニーックさんが野球帽を被って立っていた。「いつ日本から帰って来たの?」と聞くから、洪水で予定を早めたこと、帰って来た途端に仕事が忙しくなって昨日フロリダから帰ってきたことなどをかいつまんで話した。


急に夏日になって、とても美しい朝だったので、彼女と一緒にちょっと歩いた。ふと彼女の歳を知らなかったことに思い当たって年齢を聞くと60歳だと言う。え?私よりたった9歳上?70を越しているだろうと思っていたのでびっくりした。


「20年前に夫を亡くしてから凄く苦労したの。それまでは若々しかったんだけど、すごく老けたの」と言う。ご主人を突然の心臓病で亡くしたそうで、その時のことを聞いたら最後の3、4日のことを「その日の2時にはお茶をのんで、カシューナッツを食べたのよ」と時間ごとに詳細に説明してくれた。まだまだ辛くて悲しい思い出なのだ。これまで私は自分のことしか話していなかったんだよな、彼女のこと何にも知らなかったんだと改めて思う。やっと彼女と本当の友達になれたような気がした。


日本からのお土産に緑茶を上げたら、晩ご飯にはフライドライスとジャガイモのカレーを作るから6時に取りにきてと言われた。時間通りに行くと娘さんのご主人(アメリカ人)が帰宅していた。彼女は何となくぎくしゃくと会話をして、私をドアの外に押し出し、唇に指をあて「シーユーレーター」と言って袋に入った晩ご飯を唐突に私の手に押し付けた。最初は投げキスのサインかと思ったけれど、「シーッ、秘密よ」のジェスチャーだった。


そうなんだ、彼女はご主人には気を使わなければならないんだ!ご飯を私に上げるところをご主人から見られたくなかったんだ!米国に来て娘さんと同居している彼女の難しい立場を垣間みた気がした。


頂いたカレーもご飯もとっても辛かったけど、私の回復を祈って彼女が作ってくれたんだからダンピングになっても絶対食べなきゃと思った。不思議なことに彼女のお手製のナンと食べるとカレーの下味に使ってある様々な香草の味が引き出されて辛さが心地よくなってくる。ありがとう、マニーックさん。もっともっと元気になるからね。


ところで、どうして今日は彼女の英語が良く分ったんだろ?