(Since this entry is about a Japanese movie, there is no English version.)


とっても楽しみしていた豊川悦司の「フラガール」がやっと見れた。いつものようにトヨエツを通して知り合いになった方が送ってくださいました。有難うございます!


李相日という監督の映画は始めて見たけれど、いい意味でクラッシクな素敵な映画だった。もしかしたら映画の論評などでは既に語られていることと思うけれどこの映画は米国の 『October Sky』(1999)を踏まえているに違いない。


October Skyはさびれ行くウェストバージニアの炭坑町が舞台で、フラガールと同様に実話(rocket boys by Homer Hickam)を基にしている。炭坑掘りにはもはや将来の職が望めない町で4人の少年たちが、親(特に父親)の反対に抗しながらもロケットを飛ばすプロジェクトで高校のサイエンスフェアーで一位を獲得する。その結果4人はマサチューセッツ工科大学への奨学金を得、自分達の未来を開拓するという話だ。その中に出て来る家族との軋轢、メンターになる先生の存在など、実話だからコピーとは言えないのだけれども驚くほど似ている。


2つの話に違いがあるとすれば、October Skyは自分と全く違う道を歩む息子を頑固な父親が最終的に容認し抱擁するところに泣き所があるのに、フラガールの核は変化を強いられた人々が変容し革新して行く様を暖かく見つめているところにあるだろう。


今回一番感動したのはDVD特典にある「映画に使われなかったシーン」である。かなり長い、そしてなかなかいいシーン3つがカットされている。それはフラガール紀美子の兄を演じる豊川が、フラダンス会館反対派リストに渋々判を押すシーン、酔っぱらった豊川がその反対派リストを火の見やぐらの上で「つまらない」とふりまわしているシーン、そしてそのリストを焼いてしまうシーンだ。つまり映画「フラガール」の中のもう一つの大事なストーリなのだ。そのストーリーの中の豊川の演技はとてもいい。ところが李監督はその素晴らしいシーンを全てカットしてしまい、替わりにいつの間にかフラダンス会館容認派に変わったらしい豊川がすっきりとした表情でひらりとトロッコに飛び乗るところをスローモーションで捉えて『変化を真っ正面からとらえることにした』心の動きを視聴者に画像だけで伝えている。すごいなぁ。


李監督にとっては、炭坑町での『生粋の炭坑夫派』と『再生を図るフラガール派』の相克もとても大事なテーマだったのだろう。フラガールだけに焦点をあててしまうとどうしてもハッピーエンドの「お涙ちょうだい」の映画になってしまうリスクもある。だけど、勇気をもってばっさりとこのリアルな社会派の部分をカットしてしまった。


ふと村上春樹が「若い読者のための短編小説案内」(文春文庫)で次のように語っているのを思い出した。


『優れた作家はいちばん大切なことは書かないものです。優れたパーカッショニストが一番大事な音は叩かないのと同じように』


監督の言いたかったのは、フラガールの成功ではなくて、その裏の相克と勇気だったのかもしれない。だからこそ、映画の中での豊川のシーンはそれほど多くないのに何故か視聴者の心に焼き付くのかもしれない。そして一見『フィールグッド」「ハッピーエンド」の映画が人の心を打ち、ヒットしたのに違いない。


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映画の蘊蓄をブログに書きたくてたまらないなんて、どうやら私の回復もいいところまできたらしい。


明日は術後6ヶ月検診。CATスキャンをした上で外科医と会いますが全然ドキドキしていません。水曜の朝には日本に発ちます。