(English version is on 02/17)

金曜日からメーンの小屋に夫と来ている。ここ3,4週間米国北東部は日中の気温が0度をこさないため、小さな入り江はことごとく氷と雪に覆われていて、見慣れた景色が全く違って見える。


今朝起きた時は、リビングの引き戸から見える大きな入り江向も、向こう岸まで殆ど氷で覆われていた。ところがお昼ぐらいになって気温が0度近くになると、その氷がとけて、藍色の冷たい海水面がジワジワと広がって来た。お日様の光の中で姿を変えていく氷を見ているだけも飽きない。これも今夜また凍結するのだろう。


春が近いからだろうか。こんなに寒いのに、真っ赤な羽のカーディナルが1羽、小さなチッカディーが数羽、数少ない常緑樹の間を餌をさがして飛んでいた。雁が秋とは反対方向に空高く群れをなして飛んでいた。彼らは冬の間どうやって暖をとっているのだろうか。こんなに冷たい空気の中で飛翔するにはかなりの熱量を必要とするのではないか。今まで考えたこともないことに心が及ぶ。


メーンの小屋は入り江を囲む崖の斜面に立っている。その斜面を利用して作ったスノボー用のコースで、近所の男の子(と言っても18歳)が友達数人と何時間も飽くことなく滑っている。雪と言ったら、ふわふわとした淡雪しかない鹿児島で育ったからだろうか。固い氷と密度の濃い雪に覆われた冬は何度経験しても新鮮で、いつまでも非現実的だ。雪が音を吸収してしまうからかもしれない。


さて、何故この寒空にのこのことメーンまで出掛けて来たかと言うと、夫が6月までこれないからだ。3月から6月まで又もや日本だ。それに、旅行用の履きやすいウォーキングシューズを買いたいという目的が私にあった。LLビーンズの本店とファクトリーアウトレットは我が小屋から30分のところにある。ショッピングには最適だ。


実は2月21日から10日程、スコットランドのSt. Andrews大学に留学している次男を2人で訪問することにした。こんなに寒くて日照時間が短い時期に北に向かってに旅行するなんて、物好きなことなのだが、実際彼が勉強している時期に尋ねるタイミングに意味があるような気がする。


「お父さんが日本から帰って来てから行くとすると、キミはもう米国に帰って来ちゃってるね」と言ったら「別に夏まで待つ必要ないじゃない。ここは暖流が流れてるから気温はボストンとそんなに変わらないよ。きれいなところだよ」と彼が応えたのは10月だった。はっきりとは口に出さないけれど、自分の通っている大学を自慢したそうな様子が伝わって来た。


次男が英国に旅立ったのは私の手術の10日ほど前だった。『よし、癌罹病後最初の旅はスコットランドにしよう』と、10月まだ痛み止めの薬と経腸チューブにお世話になっている時に旅行代理店の扉をたたいた。


本当に実現できるかが不安で、キャンセルしてもチケット代が返って来る保険を購入していたのだが、大丈夫そうだ。まだまだ沢山は食べられないけれど、カロリーメイトのような栄養補給剤と高脂肪のチョコレートをタイミング良く食べる事でエネルギーが切れることもなくなった。ゆっくりとしたペースでこの「病気からの回復を祝うけじめの旅」を楽しむつもりである。