月曜日に撮ったCATスキャンのフィルムを持って外科医と話す。外科医はアイルランド系のまじめそうな人。背が低くて白髪がみごとだ。11時のアポだったのに部屋に入って来たのは殆ど12時。フィルムに問題があってどう切り出すか策を練っているのかもしれないなどと余計なことを考えてしまう。彼は部屋に帰って来てからは淡々とあまり感情を出さずに説明をする。肺にこぶがあって肝臓にも密度の濃い所があるが、このフィルムだけでは分らないらしい。これが転移であるか古傷であるかは金曜日のPETスキャンで明らかになるのだが、彼が余り懸念していないようなので考えないことにした。フィルムの中で食道の腫瘍はもこもこと雲のように映っていた。他の場所がきれいに白黒なのにここだけがグレーで素人にも良く分る。


米国での手術では頸部とお腹を開けて上から食道を抜くらしい。食道の下部1/3なのに何故そこまでやるんだろう?私が目を丸くして聞いていると、日本式のお腹と横腹を開けるやり方もあると続けた。彼の話によると手術に要する時間が6時間、入院が最低10〜12日、回復に8週間かかるという。ということは6月に手術をしても9月まで回復できないんだ。やれやれ。


1つ心配だったのは彼の経験は私の扁平上皮癌ではなく逆流性食道炎からの食道癌であるということだ。日本の食道癌は90%は私の扁平上皮癌なのに、こちらでは非常に少ない。それに、彼の説明はこの癌が抗がん剤放射線に反応しやすい所は全く無視したもので「やっぱり外科だ、この人」と思ってしまった。オペが好きだった「白い巨塔』の財前五郎の顔が目に浮かぶ(唐沢君はかわいかったけど)。


やはりセカンドオピニオン、サードオピニオンが必要なことを痛感した。これからまたリサーチをしなければならないけれど、今はそれが私の仕事なのだから仕方がない。


ところで、今日は「まな板の鯉」だったのだが、何故か面接の後とても元気になった。何を言われるか分らないけど、とにかくそれに対応していかなければならないという緊張が、通訳をする時のそれと非常に似ていたのだ。アドレナリンが心地よく高揚してちょっとハイになって疲れを感じず時間がすぎる。今日は身体がそのペースを思い出したようで、医者に行った後もあちこち出掛けることができた。やっぱりホントは仕事を続けた方がいいのかもしれない。