先日はとても爽やかな晴天だったので近所の山(というより丘なんだけど、スキーリフトもあるので『山』なのだろう)に登った。一緒に登った3人の女性の1人は最近ご主人を亡くした71歳の方(60歳にしか見えない)で、私は初対面。とても話がはずみ、子供のこと、ご主人のことに話が及んだ。


「主人は食道癌だったんですよ。手術をする予定で化学療法をはじめたんですが、途中で大腿骨に転移があって手術ができず亡くなりました」
「え、実は私も食道癌にかかったんですよ。病期は2期と3期の間。ケモラジの後の摘出をしました。だから食べる量が少なくて、ご覧の通り痩せているんです」
「私の夫も2期か3期と言われたんですよ。でもあの医者は本当のことを言わなかったんだと思います。夫は医者を信用しましてセカンドオピニオンは聞かなかったんですよ」


食道癌のブログで有名なケン三郎先生のブログに「医者の話を良く聴く」というエントリーがあった。癌だけでなく病気には医者にも予測できなかった展開がある。だから患者、患者の家族にとって、医者の話を冷静に良く聞くのはとても重要だけれど、これがとても難しい。たぶん彼女のご主人の場合、最初の時点では小さな転移が見つからなかったのだろう。しかし家族は医者の観測に『間違い』(とは言えないのだけど)があったことが許せない。


家族は言葉の端にある希望的観測部分に耳をそばだて、悲観的な部分はできるだけ否定して聞こうとする。家族にしたら『諦めたらおしまい』という気持ちがあるから当然だ。そして患者側はすっかり混乱している。特に化学治療中は頭もかなりやられる。医者の説明する言葉、新しい薬の名前、これからの展望。。。どんなに頑張って聞いてもうまく吸収できない。私の場合職業柄メモをとるのが習慣になっていたので、メモをもとにスローな頭を回転させてどうにか理解することができたけれど、『私の頭、どうなっちゃったんだろう?』と思ったことが多々あった。


ところで、彼女のご主人の癌が発見されたのは2006年の5月とのことで、ちょうど私の癌が発見されたのと同じ時期だ。同じ頃同じ癌が発見された私が、こうやってピンピン生きている。彼女の胸には複雑なものがあったことだろう。合掌。