雨模様の土曜日に借りて来た『The Lives of Others』を夜10時を過ぎてから見始めた.2006年のアカデミー(Best Foreign Language Film)受賞作。監督 フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク



1989年のベルリンの壁崩壊以前に存在した東ドイツの秘密警察シュタージ。その一員のヴィースラーが一作家の生活を24時間監視することになる。。。というところから始まる話なのだが、素晴らしかった。



さらに感動したのはDVD特典の監督と俳優たちのインタビューである。ストーリーを書く前のリサーチの深さとそれに掛けた時間、効果的なビジュアル化のために注いだ感性。第2主人公ドライマンを演じたセバスチャン・コッホは6ヶ月毎日4時間ピアノを練習して、邦題になっている「善き人のためのソナタ」をマスターしていること。主人公ヴィースラーを演じたウルリッヒ・ミューエ 自身が東ドイツ時代にはシュタージの監視の下にあったこと。多くの偉大な才能とインスピレーションが臨界に達して出来たような作品なのだ。


こんな真剣なクリエーティブな才能と努力の創り出した作品に接すると、感動すると同時に、現在の半分オートドライブの自分の生活が反省させられ「もうちょっと真剣に生きなくっちゃ」という気持になる。

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本当に感動した映画を観た後は監督や俳優についてもっと知りたくてグーグルするのが常だが、主人公ヴィースラーを演じたウルリッヒ・ミューエが2007年7月22日に胃癌で亡くなっていたことを発見。その年の4月のアカデミー賞出席数時間後に手術をうけ静養していたのだという。


映画の最後のシーンでヴィスラーはドライデンの新しい著書が自分に捧げられていることを知る。本屋でその本を購入する際、店員の「贈り物用にラッピングしましょうか」という言葉に対し「no, it's for me」(ドイツ語だったんだけど、どうしても英語でそういったように聞こえてしまう)と答え、映画は彼の表情を捕らえて終わる。その時の彼の目がすばらしい。映画中99%無感動で無機質だった彼の目に突然誇りと喜びの灯がともる。


もしかしたらこれは自分自身も東ドイツ時代に監視下にあったウルリッヒ・ミューエの「これは私のための映画だ」というつぶやきだったのかもしれない。


この映画が絶賛され、ウルリッヒが亡くなったこの時期、私自身は癌治療で外の世界との接触が限られていた。そのタイミングといい、映画の質といい、絶対に忘れられない映画になりそうだ。