最近次男の機嫌が悪い。去年一年スコットランドで刺激に満ちた生活をして帰って来たのに夏休みにいいアルバイトを探すことができなかったし、ドイツ語の集中講座を受けるのもやめてしまった。彼は9月からシニア(4年生)になるので夏休み中に論文の提案を出すことになっている。一般の学生は論文を書かなくてもいいのだが、ちょっとだけ野心のある彼は別枠の特別プログラムの道を選んだのだ。ところが論文の提案が通らない(もう3度も拒否された。)


学部生の常でぼんやりと壮大なスケールの論文を考えている。論文を書くと言うことは章立てし文献を並べていく具体的な作業で、煉瓦を一つずつ並べるような地味な仕事であることが分っていない。教授達からの批判が現実的でないと怒り、ぶつぶつ文句をいっているうちに、ふと気付くと夏休みは余すところ、あと2週間。文献を読む時間もなくなってしまった!とひどく焦っている。


今日は9月からのインターンシップのコネをつけに出掛けた(多分こういう行動の方が論文の提案よりずっと具体的で楽なのだろう、とても良く分る。)出掛ける前に「論文」はどうなったの」と聞いたところ「もうやめる。ドロップする」とブーたれて、夜遅くまで帰ってこなかった。たまたま長男が家によってくれたので手巻き寿司にしたのにである。


彼が帰って来てから3人でまじめに論文の話をした。夫が始めてリサーチャーとして「論文を読む側の」教授としてのコメントをした。これまではどうしてもそういう話ができなかったのだけれども、今日は息子が沸点に到達し、やっと受入れることができたようだ。最初は聞く耳をもっていなかったのに最後の方は驚くほど真面目に聞いていた。


今息子は分岐点にいる。私自身が論文でつまずいたので彼の苦しみもとても良く分る。論文をドロップするか否かは彼が決定することである。
安易な道を選んでほしくないとは思うけど、水彩画と同じでコントロールしずぎると「彼の納得する生き方」(一番の面白味)を殺してしまうからなぁ、もう大人だし。