日常の生活でも昨日と今日は決して同じでないのと同様に、癌との対応も毎日違う課題が出て来る。親ならみんな経験があることだと思うけれど、子育てをしていて「順調、順調」と思っていると、思わぬ落とし穴が必ず待っているのと同じである。思い込みや期待をせずに「今いったい何が起こっているか」に敏感になることは生きて行く上での鉄則のような気がする。


週末はそよ風のそよぐメーンですごしてかなり調子が良かったのだが、食道炎と胃酸過多のひどい兆候が見えて来た。これは放射線治療の医師から警告されていた症状である。放射線治療は毎日、ほんの10分ぐらいずつ患部に放射線を当てて焼いて行く(「お願いだからその表現やめてよね」と医者からは言われたが、一番分りやすいと思う。)それが毎日蓄積されて2週間ぐらい目から水を飲むのもつらくなるらしいのだ。今日で放射線治療10日目だから統計の範囲内にある。


木曜日ぐらいにはカボチャを自分で煮付けて食べたり、レンティルスープ(豆を中心にした野菜スープ)を、牛のように反芻しながらでも食べていたのが突然難しくなった上に、夜中に胃液が上がって来るようになった。そして今までとは異質の吐き気がある。放射線治療はあと4週間あるので、これがどんどんひどくなるのかと思うとやれやれである。


今日はたまたま放射線治療の後栄養士さんと会うことになっていた。化学治療だけでも体重維持は大変、放射線治療だけでもしかり、私の場合はそれを同時にやっている上に照射の場所が食道なので「食べる」ことについてはかなりの工夫が必要だそうである。先週から初めた漢方の処方箋にプロティーンパウダーが入っていた。牛乳や豆乳の嫌いな私は水に少しアイスクリームを加えて飲んでいたのだけれども、彼女は私にパワーシェークを作って飲むように指導してくれた。プロティーンパウダー+豆乳+果物(あるいは野菜)+アイスクリームで1回に200カロリーは摂れるという。早速マンゴーやパッションフルーツ、苺、プルーベリーなどの冷凍フルーツを買って来て作ってみた。味はまあまあ。私はそれをノロノロと時間をかけて飲む。


漢方の処方のサプリメント、お薬だけでも10種類以上あって摂取に30分ぐらいかかる。殆どがカプセルなのだが、食道癌なのでカプセルはつっかえてしまう。折り目をつけたワックスペーパーの上に、カプセルからトントンとパウダーを出して、一気に口にいれ水で流す(こういう薬の飲み方って幼い頃よくやった。)まるで儀式みたいだ。その上に今日からパワーシェークが加わった。一日中食べ物と関っているような気がする。これに加えて夜はポンプで小腸に缶入りフードを入れているのだ。。。


漢方の処方箋の中に「マインドアンドボディ」のビデオが入っていた。太極拳やヨガと同様に「息遣い」に焦点をおいた免疫活性のためのエクササイズである。お腹にチューブの入っている私にもできる運動だ。今日はこちらも暑くて日中は外を歩くどころではなかったので、このエクササイズには助かった。このエクササイズのお蔭だろうか。夜8時頃日が落ちてから外を歩いたのだけれども、かなりスタスタと歩けたような気がする。


ところで、化学治療の象徴である「毛抜け」兆候が週末ぐらいからかなり出て来た。指で髪をすくとボロボロと抜けて来る。洗髪をすると排水溝がつまってしまうのではないかと思うぐらいだ。トヨエツの「命」というとてもいい映画があったのだが、そこでの「毛抜け」のシーンはかなり劇的だった。多分一般の人に化学治療の過酷さを説明できる一番簡単な例なのだろう。ところが本人にとっては「うざったいだけ」でなんともないのである。吐き気や倦怠感に比べれば、髪の毛が抜けるなんて「悩み」の照準の中にはいらないのだ。治療が終われば生えてくるのだし、生えて来る毛は色が違ったり、真っ黒の健康な髪であることも多いと言う。最近白髪が多くなってきたので実は少し期待している。


髪が抜けている間どうしよう?この夏の暑い時にカツラを被るのもアホらしい。外に行く時は野球帽かバンダナで隠すぐらいにしようと思う。癌の場合はカツラも処方箋の中に入っていて廉価で質の高いカツラを手に入れることができる。これをチャンスにブロンドのかつらを作って毎年ハローウィーンに使うのも手かもしれない。