食道癌患者でTropic of Cancerというタイトルのブログを付けていらしたみゅうさんが亡くなった。癌が発見された時の病期がIV期。最初のケモラジ治療後に再発があり患部を内視鏡手術により摘出、次の再再発に対しては食道摘出で対応なさったけれど、頸部へ転移が発見され、その後の治療は拒否。


軽妙で素敵な文章を書かれる方で、自分の病状を客観的に観て、ユーモアたっぷりに冷静に描かれた。そしてその文章と同様に(多分)意地をはって頑固に「自分のスタイル」で行動をなさった。


一番印象に残っているのは余命わずかと判明してからの彼のフランスへの旅行記だった(以下引用)


「というわけでフランスに行ってきました。フランスまで行ってなにをしてきたかというと、たいしたことはしてなくて、コスプレをして、映画を見て、宴会をしてという、日本にいるときとあまり変わらないふつーの日々を送っていました。まあ、日本にいるときはコスプレはあんまりしないから(ほかのプレイもあんまりしないけど)そこだけ違うといえば違ったんだけど、とにかくそれはそれは楽しい日々ではございました。」(彼の2008年6月8日の日記)


そしてその日記に載っている写真の中には仕事の同僚か、お友達か、3人の紳士が彼と一緒にタキシードを着て映っている。その時はブログで余命を開示していらっしゃらなかったけれど、読者にはすぐ分かる。「いい友達をもっているな。みゅうさん生きてるな」と感動した。


がん患者のブログはどうしても筆力が足らずにヒロイックな「闘病記」になってしまう。しかし読み手/患者/家族の気持ちはもっと複雑だ。その気持ちを彼が代筆してくれたのが2008年3月11日付けの「ひとさまの闘病記(16)」(以下引用)


「・・・柳原和子さんが亡くなったことをしばらく知らなかった。

・・・きょねんの3月にNHKで放送された「百万回の永訣 〜柳原和子 がんを生き抜く〜」という2時間の番組は見た。柳原さんは10年ぐらいの間に体中のいろんなところに次から次へがんが出てきて治療をくりかえしていて、番組はその闘病の様子を中心に取材したものだった。

「決してあきらめることなくポジティブに治療を受けつづけることこそががん患者としての正しい道だ」という、制作者側の分かりやすいメッセージに素直に共感するひともそれなりにいたようだけど、逆に「最先端の治療が行われている日本全国の病院をはしごできる財力といろんな有名医師に「やあ、やあ」とお友だちのりで会いにいける職業的特権をもつ人だからできることだろう」というような見方も少なくなかったんだとは思う。

どちらかというと、「がんはひとごとだけど、かわいそうながん患者のひとがいっしょうけんめい闘っている姿を見て感動したい」系のひとは素直に感動し、じっさいのがん患者やその家族にはストレートには受けいれられない部分が多かったんじゃないだろうか。おれのまわりでもそうだった。」


さらに彼は2007年9月15日の日記では次のように手厳しかった(以下引用)


「ジャーナリストの千葉敦子さんが乳がんで亡くなって今年で20年になる。

癌にかかったことを知っただけで「世の中で重要なのは私だけ」とばかり、自分のことしか考えなくなってしまうような癌患者とは、共有するものを何も持たない。
千葉敦子『「死への準備」日記』」


私が思っていること、思っているけど文章にできないことを時にはユーモア一杯に、時には手厳しく、そして行動で道案内してくださった人だった。

彼の訃報を聞いて改めて教えてもらったことの多さを意識した。


合掌