契約では今日の午前中まで働くことになっていたのだが通訳の出番は昨日で終わった。朝ご飯を通訳みんなで一緒に食べてチェックアウト。2時45分の飛行機でボストンに向かう。ところが飛行機が1時間以上遅れ、フィラデルフィアの乗り換えに5分もなくなってしまった。


荷物をチェックインするとコンベイヤーから出てくるのに時間がかかるので、小型のスーツケースとコンピューターの入ったバックパックを手荷物で抱えている。それを引っ張りながらのダッシュ。時間的にはマサチューセッツ時間で夜11時だし、かなり長い距離だし、上り坂だしで、乗り換えの飛行機にたどり着いた時には喉が苦しくて仕方がなかった。やっぱり普通の人よりずっと体力がない。


実は、明日の仕事があるので飛行機の中で寝るつもりだったのだが、デンゼル・ワシントン監督の機内映画「ザ・グレート・ディベイター」を見てしまったのが間違いだった。機内映画は見ないことにしているのに今回見てしまったのには訳がある。


私の席の隣に13歳ぐらいのとってもかわいい黒人の男の子が座っていた。テレビのスクリーンの予告編を見た彼は目を輝かせてスチュワーデスに「グレード・ディベーターですか。イヤホーンを下さい」と言ったのだ。最近の米国の飛行機は何でもお金がかかる。機内食も7ドルだし、イアホーンも5ドル。旅慣れしていない彼は、イヤホーンにお金がかかるなんて思っていなかったらしい。スチュワーデスの「5ドルよ」の答えに「じゃあ、いいです」とあわてて言った。彼の心を察した彼女は「いいわよ。いいわよ」と無料で彼の膝にイヤホーンを落とした。
そして、この子の目をあんなに輝かせた映画ってどんな作品なんだろうと私の好奇心が刺激されたのだ。


この映画は1930年代が舞台。ワイリーカレッジという黒人に特化した南部の大学のディベートチームがハーバード大学のチームと黒人の人権問題を核に市民の抵抗の善し悪し(civil obedience)を討議し勝利をおさめるまでの経緯を描いたものである。


真っ正面から市民権運動をとらえたとてもポジティブな映画で、見終わってとても清々しい。若い人々(ことに黒人)にまっすぐな夢や希望を与える映画だった。イヤホーンを彼に無料でくれたスチュワーデスさん、あなたの粋な計らいはこの子にとってプライスレスでした!